プレスツアーに関して

貴方の知らない、7年経った福島第一原子力発電所周辺の現状

「キャロル10(テン)やフラガール等、9種類のフルーツトマトを袋いっぱい摘む事が出来ます」。キレイに管理された巨大な温室の中で、そう話すのは、元木寛さん。フルーツトマトの栽培、観光農園から、レストラン、広い芝生でのバーベキューまで楽しめる“トマトのテーマパーク”ワンダーファームの代表者です。

耕作放棄地に自前の直売所を作ったのが、今では敷地面積2.5haの広大なファームに。現在は、美味しいフルーツトマトの収穫体験はもちろん、加工工場の見学、ピザが人気のレストラン、ドッグラン、トマトの加工品や地場野菜やスイーツが人気の直売所まであり、一日中のんびりと楽しむ事が出来ます。
この美しい自然と活気あふれる施設、実は福島県にあるのです。しかも福島第一原子力発電所から約50km。これが、今の福島県なのです。

東日本大震災で甚大な被害を受けた福島第一、及び、福島第二原子力発電所の周辺地域は、今、どの程度復興したのか? 実際のところ、ほとんどの訪日旅客は知らないのでは? 誤解しているのでは? と言う事で、東京電力廃炉資料館としてオープン予定の旧エネルギー館(福島県富岡町)を訪ねて来ました。

「現在も福島第一原子力発電所の廃炉作業は、着実に進められています。この廃炉作業は、今後30年~40年かかる見込みです」。東京電力福島第一廃炉推進カンパニー廃炉コミュニケーションセンター課長の粟村明彦さんの説明が始まる。あと30年~40年もかかるのか、と改めて実感。途方もない長期戦らしい。

粟村さんの説明は続きます。東日本大震災で被災した原子力発電所は、福島県双葉町と大熊町にある福島第一原子力発電所と福島県富岡町と楢葉町にある福島第二原子力発電所。特に福島第一の被害が大きく1、2、3号機で炉心溶融。1、3、4号機で水素爆発が発生。一方で、5、6号機は、非常用電源が失われなかった事から、炉心損傷を免れたようです。廃炉作業として進められているのは、原子炉建屋内にある使用済燃料プールからの燃料取り出し。4号機は2014年に使用済燃料プールからの燃料取り出しが完了。共用プールにて安全に貯蔵・管理されている状況だそうです。そして、3号機は燃料取り出しのためのクレーン等の機器の設置が完了し、点検作業を実施中。しかし、残る1、2号機の燃料取り出し開始時期は、2023年度とされており、まだまだ先となっています。

また、「燃料デブリ」の取り出しも行わなければなりません。「燃料デブリ」とは、原子炉を冷却する事が出来ず、高温となった核燃料が溶けて、周辺の金属材料等と一緒に冷えて固まってしまったものです。1~3号機の「燃料デブリ」は、現在、継続的な注水により、安定した状態を維持しており、外部に溶け出している状態でもない、との事ですが、この「燃料デブリ」から強い放射線が出ています。この放射線が、1~3号機の廃炉作業を難しくしている原因になっているのです。この「燃料デブリ」の取り出しに向けて、放射線量の高い原子炉内の状況を把握するため、遠隔操作によるロボット調査を進めています。

汚染水対策も進められています。まず、陸側では、建屋周辺を囲むように地中の土壌を凍結させた氷の壁を作り、建屋への地下水の流れを抑制しています。合わせて建屋周辺の井戸や山側に設置した井戸で地下水を汲み上げ、建屋への地下水流入を抑制しています。また海側にも鉄鋼製の杭を約780mにわたって設置、周辺海域の放射性物質の濃度は、国が定めた基準と比較しても十分に低くなっています。

発電所周辺町村の空間線量も富岡町0.07~2.23μ㏜/h、楢葉町0.05~0.26μ㏜/hと世界の各都市の空間線量(例/ロサンゼルス0.10、上海0.59、ソウル0.12共にμ㏜/h)と比較しても同程度になってきています。また、福島県産の食品及び飲料水の放射性物質に関する検査も世界で最も厳しい水準であり、安全が確保されています。

福島第一原子力発電所での作業員も構内の約95(又は96)%のエリアが一般作業服での作業となっており、以前の報道で見たような防護服姿の作業員のイメージとは違いました。

旧エネルギー館からクルマで約20分。緑の芝生が美しい近代的な施設が現れます。サッカートレーニング施設としては世界最大規模のナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」です。この「Jヴィレッジ」は、東日本大震災後、原発事故の対応拠点として活用されてきました。その「Jヴィレッジ」が今年夏、7年ぶりに再開。震災後に作業車両でいっぱいだったフィールドも、また天然芝の美しい施設に戻りました。
「これからは、サッカーをメインに取り組むことをベースにして、その他のスポーツ(ラグビー、アルティメット、ラクロスなど)や、ドローンなどのイベントでも活用頂きたい。将来はインバウンドも」。そう語るのは、「Jヴィレッジ」ホテル事業グループホテル事業部長の伊藤隆志さん。都心のラグジュアリーホテルにも勤務したベテランホテルマンです。

充実したサッカー関連の施設はもとより、ホテルJヴィレッジには、客室200室をはじめ、レストランやカフェ、大浴場からジムやプール、アリーナ、講演会等が可能なホール等が揃っており、今後、インバウンドの利用も当然有りそう。

前出の「ワンダーファーム」も、「Jヴィレッジ」も、あの悲惨な東日本大震災を経験した福島県にある事を感じさせないポジティブな施設であり、そこで働く方々の笑顔とやる気に触れ、訪れた自分が刺激と元気をもらう視察となりました。旧エネルギー館へ向かう途中、道路横の丘に「おかえり」の大きな文字がありましたが、既に復興は進んでおり、少しずつ町も新しくなって来ているようです。近い将来、世界中からたくさんの観光客が当地を訪れるだろうとの思いを強く持ちました。

文/JIMC事務局長・斎藤柾寛
視察日/2018年10月1日

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